DETAIL
【萱島ブレンド 華】
A part / side-A
ここ最近気分が落ち込んでいる。
こんな気分の時には何をしてもマイナスにとらえてしまう。
まるで自分から不幸に向かって行くように、やることなすこと嫌な気がしてタメ息が増える。
ある日の朝、仕事に向かう途中にコンビニに立ち寄り昼食のパンを買おうとするが、目当ての「高級クリームパン」がない。
陰鬱な気分が続いている時は食べるものくらい幸福感を味わえるものが食べたい。
「高級なんだぞ」と威風堂々の風格を醸し出して棚に鎮座するあのパンが好きだ。
しかし、今日はありつけない。
あきらめて別のものを適当に選び、会社へ向かう道中に戻る。
赤信号が多い。すこぶる多い。
気がするだけかもしれないが、そんなことで少しイライラしてしまう自分が嫌だ。
出社してからもこのプチ不幸の連鎖は続いた。
普段からドンくさい私は(自覚はしている)ミスをして怒られることが多い。
営業部が使うノベルティーを500個発注をすると、親のかたきかのように大量の段ボールが届き、慌てて履歴を確認すると、5000個になっていたり。
書類を作って、やっと完成したーっと歓喜の念にとらわれ、上書き保存せずに閉じてしまったり。
そんなこんなで一日中精神を削り取られて、トボトボと帰宅する。
そんな日々がここ数日つづいているのだ。
しかし今日は、久しぶりに彼に会う日だ。
こんな暗い顔は見せられない。
気持ちを切り替えねば。
カーテンをジャーッと開けると朝日がサンサンと部屋中を明るく照らす。
日当たり最高の物件を紹介してくれた、爽やかな不動産屋さんのお兄さんありがとう。
今朝はなんだか暖かい。
窓を開けると、穏やかな風がスーッと入り込んできた。
なんと清々しい朝だろうか。
今日のデートは最高に幸せな時間を過ごせるに違いない。
きっと、昨日までのプチ不幸たちは今日のための布石だったのだ。
そうだそうだ。
アリアナグランデの鼻歌まじりに出かける準備を進め、なんとなく気になり取いれっぱなしだった洗濯物を畳み、シンクにたまった洗い物を済ませ、珍しくあれだけ余裕をもって早起きしたのに、ギリギリの時間になりアワワと家を出た。
待ち合わせ場所に向かう途中もアリアナグランデはリピートしており、スキップしそうになるのを堪えながらイソイソと歩いた。
別れ話を切り出された。
別に好きな子ができてしまったんだと。
実は少し前から、思いが薄れてきていたんだと。
絶句とはこのことかと認識し、なにも考えることができずに帰宅した。
帰り道のことは覚えていない。
瞬間移動でもしたかのように、気がつくとリビングにいた。
今さら涙が溢れてきた。
どっかあとから出てくる女に負けるくらい私はどーでもいい女なのかと、どうしようもない虚無感と孤独感が押し寄せてくる。
ウワァーッとドラマのように、そこらじゅうの食器や小物を投げ散らかそうとするが、後で片付けが大変なので、やめておく。
もういっそ窓から飛び降りて死んでやろうかと思い立つが、ここは2階で痛いだけなので、やめておく。
結局リビングのイスでグスグスしてるのもなんだか惨めになり、何か飲もうと立ち上がり、棚を覗く。
奥の方にコーヒー豆があった。
いつか、彼が大阪で買って持ってきてくれた焙煎屋さんの「萱島ブレンド 華」。
スーパーとかで買うやつよりちょっといいやつ。
彼が置いていたコーヒー器具もある。
淹れ方は知っている。
湯を沸かし、豆をガリガリするやつ(名前忘れた)で粉にして、ドリッパーにバサッとれた。
お湯を少しづつ注ぎ淹れ、コーヒーがちょっとづつ出来てきた。
おいしく淹れられたかわからないが、今は、以前彼が教えてくれた拘りの淹れ方を復習するつもりはないので、とにかく飲んでみる。
口にしたコーヒーが喉奥まで通り抜けると、口の中いっぱいにパッと広がる明るい酸味と甘味、ほどよいコクに驚いた。
まるで、色とりどりの花が一気に咲き誇ったかのような。
まるで、口の中でクラッカーを鳴らしたかのような。
私の意識は、勢いよく空に向かって舞い上がり、大気圏を突破して眩く光る太陽の目の前にまで飛んでゆく。
その地球上のすべての生命に活力を与える膨大なエネルギーに満ちた明るさは、今頭の中にある虚無感や孤独感、悲しみや憎しみもすべて吹っ飛ばしてしまった。
なんだか、メソメソしているのがバカらしく思えてきた。
そうだ。悲しんだって、後悔したって、仕方ないじゃないか。
私は私なりに等身大で、ちゃんと彼のことを好きでいたし、仕事も生活もがんばってるつもりだ。
それでいいんだ。
明日もちゃんとありのままに前を見て歩いていこう。
そう決意し、それでは明日からまた始まる日常に備えて腹を満たしておきましょうと、今度はなにかお菓子はなかったかしらと棚をゴソゴソするのであった。
【ハンドローストで煎る珈琲豆】
萱島珈琲焙煎所では、100gづつ片手鍋でハンドローストしております。
それはまるで料理をするかのような気持ちで、ご注文ごとに丁寧に味をお作りいたします。
ご注文頂いてから2~3日で発送いたします。
【保存についての考え方】
・萱島珈琲焙煎所の考え方では、焙煎豆は常温での長期保存には向きません。
ジップロックやキャニスターなどに移して、冷蔵庫か冷凍庫での低温保存を推奨しております。
・豆、粉どちらでも購入頂けますが、保存のことを考えると豆での購入をおすすめします。
粉の方が風味が落ちる時間が早い為です。
ただし、豆でご購入の場合はコーヒーミルが必要になりますので、お客様に合わせてお選びください。
・冷蔵庫保存で、焙煎日からおよそ2週間から3週間ほどでネガティブな酸味を感じるようになってきます。
ご購入は少量ずつ(1週間から2週間程度で飲みきれる量)ご注文頂くことをおすすめいたします。