珈琲豆を販売する時に、それがどんな味なのか伝えるのは少し工夫がいると感じています。
特にネット販売ではより難しいです。
例えば写真。
料理であれば、品物ごとに色とりどりの美味しそうな外観があり、そこにさらに見るも鮮やかな盛り付けを施し撮影すれば、食欲もそそるというもの。
ところが珈琲となるとそうもいかない。
若干の色味の違いがあれど、どれもこれも褐色の液体。
銘柄ごとに、鼻腔をくすぐる香ばしくも魅惑的な香りがあり、口にすれば多種多様な味わいが確かにあります。
本当に心を込めて味作りをしていれば、画面を通して伝わるはず!といくら息巻いて丹精込めて写真に収めど、それはあまりに理想的すぎるというもの。現実的にはそうはいきません。
できることといえば、カップを変えたり、背景に映り込む小物を変えたりといった小細工が精一杯。
他には、データを示すという手もあります。
生産国や品種、焙煎度合いや焙煎した日付けを表記しておけば、ある程度どんな味なのかを想像してもらえる手がかりになると思います。
しかし、それは珈琲にかなり興味があって、ある程度勉強している人に限ると思います。
いくら珈琲が好きで、美味しい珈琲豆を買おうと思っていても、エチオピアの豆はどういう味か、ブルボンならばこういう味だ、などと読み解ける人の数は限られているでしょう。
であるならば、それでもなんとかして味を伝えたい販売者に残された術は、もはや言葉で示すことしか残されていません。
ではどんな言葉を綴ればよいか。
例えば芸能人や、人気YouTuberが「おいしい!」と言えばその一言でかなりの影響力があるでしょう。
しかし、僕には残念ながらそんな力はない。
一方で最近よく目にするのが、「パッションフルーツのような酸味」「カシスのフレーバー」といった比喩表現です。
これは、プロのバリスタや鑑定士の人たちが、カッピング(コーヒーの品評会)の時や大会の時に使われる「カップコメント」というものから派生して、最近はよく使われているようです。
そこで想像してみてください。
コーヒー豆を買いに行って、「これはシナモンの香りがしてチェリーの味がします」と言われて、味を想像できますか?
まだ、シナモンやチェリーなら良くても、「タマリンド」と言われてわかりますか?
僕は正直よくわかりません。
シナモンやチェリーなら、おそらく飲んだ時にそんな気はするかもしれませんが、飲んでいるのはコーヒーなんで。って思います。
タマリンドに至っては、それが何なのかすら分かりません。
最近常々思うのですが、味というものは一人一人感じ方が違うものと思うのです。
また、同じ人でもその時の気分や環境、時間帯、誰といるのか等、感じ方が変わる要素がたくさんあって、すごく曖昧なものなのではないでしょうか。
その曖昧なものを無理やり具体的に表現しようとしても、ちょっと無理があるように思うのです。
大きいものを、小さい箱にギュウギュウと押し込んでも入らないように。
味という曖昧なものを曖昧なまま、それでいてイメージだけ伝えるには言葉や単語では到底足りないのです。
だから僕は、文章を綴ることにしました。物語を。
萱島珈琲焙煎所の各商品ページには、その味わいからイメージした物語を掲載しています。
その物語を読んで、どんな味か読み手に自由に想像して頂こうという趣旨です。
是非、ご購入の際にお読みください。