萱島ブレンド 香 表紙
A part / side-C

トゥルトゥルトゥルルン
トゥルトゥルトゥルルン

久しぶりに目にするアカウントからの通話呼び出しだ。
いつの間にかプロフィール画像が変わっている。

「アツシ?久しぶりじゃん」

「久しぶりー!」

「なになに?ってか、いつぶり!?」

「卒業してから一回会ったきりだから、一年半ぶりくらいかな?」

私とアツシは大学の同級生だ。
今も続く友人の中では、一番古参で入学して間もない頃に出会った。

高校から一緒に入学したハナにアツシはナンパじみた誘いをしてきたのだ。
ハナは人を疑うことを知らない子なので、私はなんとなく一人にしておけない気がして、保護者感覚で付いていった。

変な風に絡んできたら、マジで蹴り飛ばしてやろうと思っていたが、結局学食で、男女数人で昼食しながら合コン(私が知ってる合コンとはかけ離れている)みたいなことをするだけだったので、私は入学早々暴行事件を起こす羽目にならずに済んだ。

その会がきっかけで、そのメンバーは定期的に遊びに行ったり、飲み会をしたりして、グループ化していた。

しかし私は、卒業してから地元に戻り少し疎遠になっていた。
というか、そもそもあまり群れるのが得意じゃない。

それに、卒業してから私は就職しなかった。
だからなのか、前にグループ内だけの同窓会をした時に、あいつらは仕事の話をするが、私はほとんど話に付いていけなかった。

接待がどうの、ボーナスがどうの、有給がどうの。
私にはどうも違う世界の話のような気がして興味が薄れる。

「彼氏できた?」

「できてねぇよ。」

「じゃあ、俺立候補するよ!」

「ばぁーか。何度目だよその件。」
「アツシと付き合うくらいなら一生一人でいいよ」

「そこまでいうかよー!相変わらずツレないねぇー」

学生の時からのお約束のやり取りだ。
うちらのグループ内では、はじめの方こそポツポツと恋の火種がつきはしたが、誰も付き合うまでには発展しなかった。
みんなよそで恋人を見つけて付き合ったりして、その恋バナを肴に飲み会をしたりした。
アツシも、私にこんな冗談を言うくせに他の子と付き合っては別れ、また付き合ってを何度も繰り返していた。
私にはこれ以上ツッコんでくることはない。
考えてみれば、そのおかげで今も尚みんな連絡を取り合える仲でいられるのかもしれない。

「それでさ。今度また集まろうとおもってるんだけど、来るでしょ?」

「んーまぁ、考えとく。」

「えー、それまた来ないつもりっしょ!たまにはさ、ね?久しぶりだしさ。」

「ハナは誘ってんの?」

「まだこれから連絡するけど、ツヨシも来るだろうから、もちろん来るんじゃない?」

「あーそっか、あいつらまだちゃんと続いてんだ。」

「そうみたいよ。前に出張で大阪に行った時にさ、ツヨシと偶然合ってさ、あいつも出張だったみたいで、スゲーってなって。」
「で、そんときに聞いたんだ、まだ続いてるって。」

「ふーん、そうなんだ。」

「あ、そういえばその時に買って送ったコーヒー豆、飲んだ?」

「あーあれ?まだ飲んでない。」

「えー!早く飲めよー。俺からの愛を込めたプレゼントなのにー。」

「うっせぇなー。淹れ方しらねぇもん。」
「まぁ、母さんがわかると思うから、淹れてもらって飲むよ。」

そんなこんなで通話は終わり、私は自室を出て1階に降りた。
キッチンにいる母さんに、アツシが送ってきたコーヒーを淹れてもらえるように頼んだ。

正直、今回も参加する気が起きない。

別にあいつらが嫌いな訳ではないけれど、住む世界が違う気がしていて、なんだか面倒くさい。
みんなは自分でやりたい仕事を見つけて、そこに向かってどんどん進んでいる。
文句は言うけれど、間違いなく私が知らない経験を積んで、それぞれ自分の道を歩んでいる。

私は、そうすることを途中で諦めてしまったから。
道を外れてしまって、その間にみんなの背中がどんどん小さくなっていくような感覚になる。

あいつらと会うとそんな事が頭を過ってしまうから、鬱陶しい。

「できたよ。」

一人で卑屈になり、イライラしていると、母さんがカップを差し出してくれた。

フワッと立ち昇る艷美な香りが鼻腔をくすぐる。


「あら、美味しいじゃない!いいお豆なのかしら?」

先にコーヒーに口を付けた母さんが言った言葉を聞いて、私も口を付けた。

美味しい。
控えめだけどちゃんといる苦味と、ほのかな甘味。酸味も少しだけ感じるがスッと消えていく。スパイスのようなちょっと悪戯っぽい感じもする。

色々な味が複雑に混じり合って一つに纏まり、身体の中に優しく溶け込んでいく。
なんだか肩の力が抜けるような気がした。

「母さん、これなんて豆って書いてる?袋見して。」

送られてきた時、コーヒーだったのでほとんど見ないで母さんに渡した。
自分では淹れることができないから。

アツシはなぜ私にコーヒーなんか送ってきたのだろう。
そう思っていたが、パッケージを見てわかった。

「萱島ブレンド 香」

あぁ、あいつはこの名前を見て私に送ってきたのか。
私と同じ名前のコーヒーだから。

あいつに言ってやりたい。
「スベってるぞ」って、面と向かって言ってやる。

なんだか穏やかで、胸の奥が温かな気持ちがして、アツシに一言LINEした。

『行くよ』

MESSAGE FROM STAFF 店長からのメッセージ

前田 寛
前田 寛

大阪府出身、寝屋川市在住。

コーヒーの奥深さに魅了され、独学で焙煎を学んだ焙煎人。

芸術家・職人気質なのが玉に瑕。

やり始めの頃に「お店を出すなら萱島」と決めていたので、屋号に地名を先に入れてしまいました。

好きな言葉は「決められた道をただ歩くよりも、何かを求めて傷つく方がいい」

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